2010年 02月 10日
アサヒビール大山崎山荘美術館
朝、窓の外を見て爽やかな青空が広がっていると
つい電車の行く先を変えてここに来ることがあります。
美術館まではJR京都線の山崎駅から10分ほどのプチハイキング。
駅から踏切を越えて山手に向かっててくてく歩いていくと
琅玕洞(ろうかんどう)と呼ばれるトンネル風の門があります。
そこをくぐって更に上に登っていくと山荘風の本館が見えてきます。
この建物は大正時代に関西の実業家加賀正太郎氏が
イギリスのチューダー様式を模して自ら設計し建築した別荘。
現在はアサヒビール(株)が所有し、美術館を含む周辺地域の
景観保存を目的とした美術館として活用をする為に
建築家安藤忠雄氏に山荘の修復及び新館の設計を依頼し1996年、
「アサヒビール大山崎山荘美術館」として生まれ変わりました。
こぢんまりとした玄関が美術館の入口。
中は撮影不可なので紹介できませんが、
内部はイギリスの洋館のようだったり日本の民家の
ようだったり、どこかオリエンタルな要素もあったりと
様々な様式が混ざり合いながら独自の雰囲気が創り上げられ、
柱、壁、床、階段、窓等、どこもとっても職人の手による細やかな
細工が施され、丁寧に修復され手入れされている空間です。
本館のメインコレクションはアサヒビール初代社長の
山本爲三郎氏の民藝コレクション。
河井寬次郎、濱田庄司、バーナード・リーチ、富本憲吉等、
民藝運動を代表する陶工の作品が館内の空気と混ざり合うように
馴染んでいます。
建物と共にそれらの作品を見るのも好きですが、
なんといってもここで一番好きなのはこのテラスからの眺め。
美術館は木津川、宇治川、桂川が合流する天王山山麓に位置し、
広いテラスからは遮ることなく目の前に広がる
穏やかな景色と空を一望する事が出来ます。
なんでも、若かりし頃欧州に遊学した加賀氏が
ウインザー城を訪れた際に目にしたテムズ川の流れに思いを馳せて
この地に山荘を建てたとか。
この日は思いのほか暖かく風が心地良かったので
テラスでのんびりコーヒーをいただきました。
青空を背景に刻々と形を変えてゆく雲、
柱や梁や床にドラマティックに影を刻んで行く日差し、
慈しまれた空間が放つ暖かいオーラを感じながら
ぼんやり遠くの山並みを眺めているとなんとも豊かな気持ちになります。
テラスの一角には濱田庄司とバーナード・リーチが
アサヒビール東京大森工場の為にデザイン、制作した益子焼きのタイル。
本館は美術館としてはとても小さな建物ですが、
何度訪れてもそのディテールを見飽きる事がありません。
☆
そして本館だけでなく、
「地中の宝石箱」と呼ばれる新館も素晴らしいのです。
(写真は庭の睡蓮池越しに見た新館の通路部分。)
本館から新館へのアプローチはまるで神殿への入口のように
静かで神聖な空気が流れています。
安藤氏は新館を設計するにあたって新館の建物の
ほとんどを地中に埋めました。
円形ギャラリーは緑化された天井の一部を見るのみ。(写真右下↓)
この構造のおかげでこの地の素晴らしい景観は損なわれず
環境も破壊されずに済みました。
あえて見せない事を最大の見せ場とした安藤氏の決断に拍手。
ギャラリー内部にはアサヒビールが所有する
モネの「睡蓮」が展示されています。
訪れた日はアサヒビールが所有する5点の睡蓮作品
全てが特別公開されている企画展
「睡蓮池のほとりにてーモネと須田悦弘、伊藤存ーの最中。
新館の通路とその前には睡蓮池があり、
その様子にジヴェルニーを思い出しました。
ここに展示されているのはパリのオランジュリーに収められた
睡蓮の習作として描かれた作品なので1点が2m×2m程。
絵のサイズも点数も美術館のスケールもオランジュリーとは
比べるべくもありませんが、自然豊かで閑静なこの場所で
土地と建物と芸術が静かに一体になっている様はとても好ましく、
庭の一角にただ立っているだけでも心が安らぎます。
きっとモネも民藝の陶工達もここに作品がある事を
喜んでいるのではないでしょうか。
*オランジュリー美術館の過去記事はコチラ。
*ジヴェルニ−の過去記事はコチラ。
by izola
| 2010-02-10 22:18
| 美術館(国内)