2007年 08月 02日
俵屋/3
自宅からほんの一時間足らずで辿り着く
この宿の前で、今まで幾度も足を止めていました。
自家用ジェットで行かなければならないような
秘境にある訳でもなく、
恐ろしくゴージャスな建築や内装である訳でもなく、
世にも珍しい美食やサービスを提供するという訳でもない・・・
けれども、
世界中のセレブがわざわざ足を運ぶという名旅館。
京都の町中の細い通り沿いにひっそりと佇み、
知らなければすっと通り過ぎてしまいそうな
ささやかな入口の向こうに広がる
小宇宙のような伝統美の世界を想像して、
いつかその世界の内側を覗き見る自分を夢見て、
憧れの眼差しを送りつつ
何度も静かに歩み去りました。
年齢も人生経験も勿論経済的にもまだまだ
至らない私がこの世界の内側に立てるようになるのは
早くても40代50代になってからだと思っていました。
そんな私を思いがけずこの敷き居の内側に
呼び込んだのは一冊の本、
村松 友視氏の「俵屋の不思議」。
憧れの俵屋の世界をせめて文章で垣間見たいと
手に取ったこの本を読み終えた私は、
その不思議を自分の眼と心で直に感じたいという
強い衝動をどうしても抑える事ができませんでした。
「井居畳店」の畳・・・
「唐長」の京からかみ・・・
「静好堂中島」の和紙・・・
「平田翠簾商店」の簾・・・
「中村外二工務店」の匠技・・・
知らなければ一見何の変哲もないただの畳であり
簾であり障子であり和室である・・・
そのさりげなさの奥に深く宿る京都の職人衆の技と心意気、
そしてその職人衆を心から愛してやまない主との
密接な信頼関係・・・。
それこそがこの宿を世界に二つとない特別な場所に
創り上げているという事実を知る事が出来、
こうしてその心技を一瞬でも体感できる幸せに
感謝しました。
by izola
| 2007-08-02 16:56
| 俵屋旅館