造形の詩人

東京美術展レポの最後は
こちらもnongさんの記事を見て
絶対行こうと決めていたイサム・ノグチ展

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今回の美術展はどれもこれも素晴らしい企画ばかりでした!



本展はノグチがマスタープランを制作し、
彼の没後17年目にしてようやくグランド・オープンした
札幌の「モエレ沼公園」の開園を記念した展覧会だそうです。

イサムノグチの作品といえば
和紙照明の「AKARI」シリーズや
Vitra Design Museumがライセンス製造している
ノグチ・テーブルなどがありますので
ノグチ作品を身近で感じる機会は多いと思います。

本展ではそんなノグチが手がけた数多くの彫刻作品と
ランドスケープデザインの模型を見ることができます。

師ブランクーシの影響を多大に受けた抽象作品、
丸みのある輪郭の様々な形状の平板をパズルのように
組み合わせた「インターロック・スカルプチャー(連結彫刻)」、
大地の一部となる事で完成する石の彫刻、
より高貴でより本質的な彫刻的目的を求めて
様々なアプローチを試みたランドスケープデザイン・・・


それらの作品を順を追って見ていくと、
彼の視点が目の前に見えているモノから
どんどん地球や宇宙を見据えた広大なスケールに
移り変わっていく様子が見て取れて、
前日のダヴィンチに対する感想との共通点を感じました。

真の芸術家の視点や思考というのはこのように
外へ外へと向かっていくものなのでしょうか。

時代的に両者に直接的な関係は全くありませんが、
ノグチが彫刻家になる決心をしたのは
NYのレオナルド・ダ・ヴィンチ美術学校に通っていた時
というのもすごい偶然です。

*余談ですが、ノグチは魯山人とも交流があり、
あらやにはノグチのAKARIシリーズの大きな行灯が
あちこちに置いてありました。
最近私が見る芸術家が全てリンクしているのも
これまたすごい偶然。


彫刻作品の中で一番の注目は、
スウェーデン産花崗岩で作られた高さ3.6m、重さ17tの
門外不出の大作「エナジー・ヴォイド」。

有機的な曲面は見る角度によって様々に表情を変え、
しっとりと滑らかな黒い石肌は触れると生き物のように
うねりだしそうな、ほんのり温かいようなとても不思議な
質感です。(もちろん実際には触れていません。)

ヴォイドとは「虚空」という意味だそうですが、
この空間を通り抜けるとその向こうは違う次元が存在する
と言われても信じてしまいそうなほどの
強いエナジー(力)を感じました。

東京では館内のアトリウムに設置されていましたが、
札幌展では前庭池の中に浮かぶように設置されていたそう。
水と組み合わせると更に不思議な力が増幅しそうですね。


展覧会の中で紹介された「モエレ沼公園」に関する資料は
模型と図面、VTRだけでしたので、その時はあまりよく
理解できませんでしたが、購入したカタログを帰ってから
ゆっくりと読んでみると、公園が完成するまでの経緯が
系譜、写真、図面、図表、論文等で詳細に載っていました。

1977年、モエレ処理場(ゴミの最終処分場)として跡地を
公園化することを前提に札幌市が用地買収し、
1981年に公園基本設計が策定、翌年から造成開始。
1988年にノグチへの設計依頼が検討され、数度の来札を経て
同年7月正式に基本設計委託業務契約を結ぶ。
11月にはマスタープランが完成するも12月30日に急逝。

ノグチの死後も札幌市が彼の意志を引き継ぎ、
ノグチ・イサム財団とショージ・サダオが監修し、
アーキテクト・ファイブが設計統括を行い、
実に17年の歳月を経てようやく今年の7月に
全面開園を迎えたそうです。

公園はモエレ山、プレイマウンテン、ガラスピラミッドなど
16の主要施設から構成され、そのほとんどが
幾何学的形態で作られています。

特に三角形やピラミッド形のような錐体を多用していますが
その理由は、垂直の壁や崖がないことで
「公園全体の中で子供達が行けない、触れない場所がないこと」
を示し、安全にどこへでも登ったり色んな視点から公園全体を
眺めてほしいという思いからだそうです。

彼の作品の中には子供のための遊具作品が多数あり、
本展では中庭に2作品が設置され
自由に触れて遊ぶことができます。

ノグチはこうして遊具を子供が使用したり、公園に人々が集う事で
大地の彫刻としての作品が完成すればいいと考えていたようです。

モエレ沼公園にはノグチが生前に実現した38作品と
計画案にとどまった15作品の全ての要素が含まれており、
世界中に50を超える姉妹作品があるそうです。


モエレとはアイヌ語で<静かな水面>。

またひとつ、国内で行くべき場所が増えました。


*文中の説明文の一部はカタログから引用させてもらっています。
*ここのイヤフォンガイドはとても詳細な説明で良かったです☆
*やはり平日行かれる事をおすすめします。
by izola | 2005-11-05 20:15 | 美術館(国内)

旅は心の宝石箱